116 運河で見つけたスーベニール

116 運河で見つけたスーベニール 1992年 611×1021mm リトグラフ 額装価格: 680,000(税別) SOLD OUT

フロリダ州のマイアミ・シティから湿気を多く含んだ空気を掻き分けながら車で20分程北へ上がると、プレジャー・ボートの群で町中が運河だらけのフォー ト・ロウダディールに着く。昨日のマイアミビーチ・シティの取材が不漁に終ってしまたために、この運河の町に想いを馳せていたのだ。昼頃にロウダディール に着いて、すぐさまホテルを探して取材の準備に入った。ホテルで気付いた事なのだが、なんだか回りの視線が気になった。そればかりか言葉もキツくて不親切 なのだ。それでも、こんなことも時にはあるだろうと気にはしなかった。街を走り初めて、しばらくしてから気がついたのだが、白人が多いのだ。黒人やヒスパ ニック、東南アジアが、ほとんど居ないのではないですか。――ポツポツとは現われるが、ほとんど白人ばかりの白い運河地帯なのだ。それで理解が出来た。そ うか、ここは白人居住区なのだ。だから、なんとなく白い目で見られたのだ――ちょっとおもしろいなと思った。町の運河は地図で見た時の印象より、実際は もっと多くて複雑に入り組んでいた。侵入禁止やプライベート・オンリーが多くて、車を置いて歩いた方がスムーズに取材が出来ることも知った。しかし、こん なことなどで打つ消すぐらいに町は美しかった。運河の水はたっぷりとして、ゆったり、澄んでいて清くヨットや大きなモーターボートが数えきれない程整然と していて、白く輝いて揺れている。櫛の刃にあたる運河を挟んだ細い陸の部分には、これがまた、白く輝く高級な住宅が立ち並んでいる。緑が溢れていて、道は 青い芝が広がっていて、ここが麻薬犯罪の多発するマイアミ・シティのベッドタウンとは、――どうしても考えることを拒絶されてしまうのだ。歩いて、歩い て、そして歩いた。溢れる汗を拭う事も忘れて、撮って撮って、そして撮り尽きてしまう程取材した。二日間歩き尽くして、変なカメラ小僧の去ったフォート・ ロウダディールに平和な白人の社会が戻ろうとしていた、その前日の夜「今日はポン食ですねーッ。」とコーディネーターのJ君が言った(ポン食=日本食)。 「エーッ、この町にポン食屋があるのか?」と私がうなってしまうと、J君が「なんと、サムライ鉄板焼ですぜ!」とおどけて答えたので、すぐさま出掛けるこ とにした。それは、やはり運河地帯ではなくダウンタウンに在った。店内は薄暗くて、なんとカラオケまで設備していた。店のオーナーは日本人だったが、以前 はニューヨークでスシを握っていたんだそうで、そのオーナーに言わせると、此処に来る日本人は大変珍しいと感心していた。カラオケは白人居住区の歌好きの ためで、結構大勢で現れて、日本の歌なども歌いまくって、ご機嫌なんだそうだ。あんた達も歌って行かないのかと言うので、丁寧にお断りして店を後にした。 夜半にホテルに戻るとTVでシュワルツェネッガーのトータル・リコールをやっていて、ビールを飲みながら絵だけ目で追っているうちに、いつの間にか眠って しまった。フォート・ロウダディールの二日間は充実した。リゾートここに在りといった風で、私はこの町のたった二日間で40~50点もの絵が描ける程の宝 を手に入れた。いい旅のいい思い出は、この絵に在る様なスーベニア・ショップでも手に入るが、私はあまりにも美しいこの町の風景を600カット余り手に入 れることが出来た。